補修・修復・修繕などと呼ばれる仕事に長年携わっていると時折「これを治す必要ある?」というものに出くわす事がたまにあります。
今回もそんな事例の一つ。
住宅街などでよく見かけるシャッターガレージ入口内側の木枠の傷でございます。


焼け具合や汚れ具合・デザインなどから見てそこそこ古めの物件でしょうか、
ただどこかで見たことがあるような無いような…
塗装で化粧がされているわけではなく赤黒く焼けた無塗装の木の柱材に無数の傷が付いているのでそれをなんとかして欲しいというご依頼です。
ん? いや、ちがう、
ちがうちがう、そうじゃない、
どこかで見たような……赤い…
何かと戦ったような凄まじい傷…
こ、これは…
もしや赤カブト!?
完全に流れ星銀牙の殺人熊・赤カブトやないか!?


全身の血が逆流するほどの衝撃が襲ってきます。
気付かないうちに赤カブトの縄張りにはいってしまっていたようです!
ヤバイ!!
だがすでに気持ちは戦闘態勢に入っています!
「困っています!何とかして欲しいんです!」と訴えてきているのに「これ傷の部分がまだ焼けてないだけで時間が経てばだいぶ目立たなくなりまんで!塗ったらペンキが劣化して剥がれて汚くなりまっせ!」なんて野暮なことは申せません!
そうならないように全力を尽くすのみ!
リキ仇はここでうつ!!
取り敢えず服を着たままではやる気も何も起きないのでサンダーを使って丸裸にします。そうすることで傷の箇所、即ち凹んでいる部分を明らかにします。

この辺では赤カブト感は形を潜めておりますがおもてたよりもだいぶとイッてました。
まぁ全部塗るので関係ないんですけどね…
焼け具合、雨の吹き込みなど状況から判断してそこそこ厳しい環境であると推測。ゆえに下地から強くしたいので、
1 防蝕接着プライマー
2 ファイバーポリパテ→削り
3 防蝕接着プライマー
で強固な上、いたみにくく尚且つ塗料乗りの良い膜を作ります。
(写真にはありませんが今回のプライマーはソテッ◯社のものを使用しました)
しかしながら先程も申しましたが元々無塗装品ということもあるので仕上がりをイメージしながらあくまでも薄塗り薄塗りを意識して進めます。
先にパテ処理した部分に色をつけて隠蔽します

色が全然ちがうって⁈
大丈夫です。不自然な傷の形を隠す為だけの工程なので多少の色違いは全く問題なし。あとは細かい木目は気にせず大きな木目だけを見失わないようにうすーく隠蔽。木目を描いて赤カブト色に染めてまた木目描き。を数回繰り返すと



大体こんな感じに仕上げてみました。
「絶天狼抜刀牙」を出すまでもなかったです。
いくら赤カブトとはいえ生まれたての頃はただの子熊だったに違いありません。
「もう誰も傷つけるんじゃねえぞ。」
なんてふざけておりますが、実は今回は赤カブト退治以外に裏テーマを設けておりました。
作業方法の見直しです。
部分補修ではなく、今回のようなある程度広い範囲・面でおさめる様な補修の場合、意識しなければならない事はやはりリアルさ。
それは見た目だけでなく耐久性も込みのリアルさ。
脆過ぎても丈夫過ぎてもダメで周りと同じように劣化していける様なリアルな仕様。
今回のやり方がそれに該当するかはわかりませんし、先に傷んでくる可能性だってあります。
目指すは本物同等の仕様ですが実際には難しい事はわかっています。ただそういうことを意識するのとしないとでは仕上がりはかなり変わってきますし、考える事でまた出来ることも増えていくものだと思います。自分なりの方法で作業を成立させる事が出来た時の喜びは何ものにも変えがたく、またその喜びを仲間と共有できたならば明日も頑張ろう!ってそう思えるんじゃないでしょうか。