個人事業主から株式会社を設立した理由 編 ボワボワのブルースvol3

営業から現場労働、土下座まで行う超生産性のある中間管理職・・・
職人達の仕事の振り分け、顧客対応、請求、支払いを行うスーパーマルチタスク事務員・・・
そう、その全てを血ヘド吐きながら遂行しているのは、BOWABOWA修復株式会社 代表取締役「私」である。

「怒りの飲みにケーション」

悩んでも悩んでも…

元請けから「法人成りしろ」とのお達しがあってからしばらくたっていたが、私はまだ悩んでいた。
収入が減るのは分かっていたが、それでも「会社経営」に興味はなく、そもそも、元請けが「得を得る」ためのお達しである事をなんとなく感づいていたからでもある。簡単に言うと自社の雇用をふやすことなく、労働基準局に突っ込まれずに確実に金儲けしたかったのだろう。
「会社経営」をしている今となってはどうでも良い事だが、当時もしかしたら、その元請けは「下請法」に抵触していたんじゃないかとも思う。

話を戻そう・・・

私は悩んでいた。「会社設立」「会社経営」をすると言うよりも、専属外注をやめて(請け負っていた仕事を0にする)本当の意味での独立、今よりもさらに技術を習得する為にはどうすれば良いか?世界に羽ばたくには?自分自身を宣伝する為には?ハリウッドに住むには?etc・・・。
ほとんどの考えが「職人」である事を前提としており・・・それもそのはず、会社設立の事を考えるより、この仕事を始めた時からずっと、塗料や材料、道具や工具のような作業に関わる事を調べたり触れたりする事に夢中だった。
これから家族の為にも収入を増やさなければならない、この業界もいつまで続くか分からない、単価もどんどん安くなるだろうと不安に思っていても、心のどこかで、将来はきっとうまくいく、少し収入が減っても家族は養っていけるだろうと安易な考えと根拠のない自信で都合の良い未来しか考えれていなかった。

そんな折、親睦を深めようと元請けから「飲み二ケーション」のお誘いがあった。
また突拍子のない「お達し」を言われるのではないかと少しヒヤヒヤしたのだが・・・

いざ飲みにケーションへ

補修屋の特に個人事業主は基本的に一人で車に乗って現場にいき仕事するスタイルで、仕事帰りに呑みに行くと言う事ほぼなく、呑みに行くのであれば一度家に帰ってから。
気軽に呑みに行けないので、たまに誰かが企画した「飲み会」と言うのが少し楽しみであったりもする。元請け主催のこの「飲みにケーション」は専属外注業者全員と一部の元請け社員が参加するとの事、前途に述べたようにヒヤヒヤしていたが、仕事仲間と久々に会って近況を聞けるのが楽しみだったので行くことに決めた。

「飲みにケーション」当日、参加しているメンツは全員知った顔である。ただし、仕事柄、こうして顔を合わせるのは数週間ぶり、数ヵ月ぶり、中には1年ぶりに会う人間もいる。
同じ元請けの仕事をしていてもこれだけ「会う」ことが無いのだから、個人事業主の補修屋は孤独な商売だなと再認識した。
そして、この仲間のような仲間じゃないような少し独特な関係性をもった補修屋の「飲み会」は、結局、法人成りの話をするでもなく。仕事の話をするでもなく、元請けからのヒヤヒヤも無く、飲みにケーションが終わったらどのお店♡に行こうかとそんな話で盛り上がる・・・久しぶりにリラックスしたとても良い時間を過ごせていた。

 

が、その矢先・・・

「おい、龍太郎!お前将来どうすんねん!?」

すでに法人化し仲間うちで会社を始めていた連中がつっかかってきた。
昔から知っている連中だが、年下にもかかわらず生意気だった私を酒の肴にしようと思ったのだろう・・

「お前何企んでんねん?」

別の一人が続けて言った。

(そう・・・俺は誰よりも仕事ができ男前だ。その自信に満ち溢れた何かがにじみ出ている嫌な野郎だと言う事は重々承知。しかし今日はそんな俺を放っておいてくれ。このあとに行く「お店♡」が楽しみなだけだから・・)

「お前何がしたいねん!?」

さらに誰かが言った。

連中のあまりのしつこさに私は一発・・・

 

「世界一の補修職人。」

自信満々で言ってやった。

・・・がその瞬間

 

大爆笑。

そこにいたほぼすべての人間が私を指差し笑っているではないか・・

確かに笑うのも理解できなくない・・・。私にとってこの仕事は生きがいであるが、そうではない人達・・・ただお金を稼ぐ手段と考えている人達にとっては私の言うことはちゃんちゃらおかしいだけだろう。私の事を理解できないのを理解する事はできる・・・。
しかし、さっきまで私と風俗の話をしていた元請けの社員・・・今日は気分がいいのでコイツをサプライズで風俗接待してやろうと目論んでいたが、まさかのそいつまで腹を抱え笑っているとは(う、裏切り者!)。

笑い声が続くなか、誰かがボソッと、

 

「なんやしょうもない。」

 

そのセリフを私は聞き逃さなかった。一瞬で酔いがさめた。夢をバカにされたという悔しさと怒りが急にこみあげてきた。そしてそれと同時に自分は何者でも無いという虚無感にも襲われた。

(クソ、言い返さないと・・・)

この場に自分を取り戻すために私はその連中に心なしか小声で言い返す。

「会社経営なんて職人の仕事に比べてクソ簡単なことやろ?ましてや補修会社なんて誰がやっても儲かる。お前ら経営の中でも一番簡単な補修会社やってるだけやろ?」

(会社経営に興味はなかったがこの時代において建築建設業のなかでも「補修業」は他の業種に比べ利益率がかなり高い。そして「補修会社」に勤める現場労働者で高給取りは見たことがない。それらを考えると単純に儲からない補修会社はない。人工商売なので人工を出せば利益は確定する。もちろん仕事を覚える前のボウズを雇っても1~2ヵ月もすれば仕事を覚えるので少額の投資で済む。その間は特に給料も安くつく。だから特別変わった事業や特別変わった経営をせず、また建築業では認められていない労働者派遣(法律違反)のようなよくある補修会社のスタイルでやっていけば相当儲かる。・・・じゃないか?)

すると、

「お前会社経営したこと無いのにようそんなこと言えるな~!?そんな簡単ちゃうぞ(怒)!」

(急に怒る!?)

「お前がそれを言うたらあかんやろ(怒)!」

(いやいや。。。)

そして周りの連中も

「龍君~会社むずかしいよ~」
(お前もやってないやろ・・・)

「龍ちゃんちょっと謝った方がええんちゃう?」
(悪いことしてないやろ・・)

本当に訳が分からない。そこにいる誰もが否定的で、味方は誰一人いない。
先程の風俗社員、もとい、元請け社員までもが私に謝罪しろと促すではないか(このソープ野郎地獄で待ってろ!)。

私は心のなかで冷静になる事に努めた。 (サンカルパ)

(会社設立間も無くテンション上がって青年実業家気取りなんだろう・・・・。
将来のビジョンもあやしく、「社長」になりたい「経営」したい「金持ち」になりたい…そんな漠然とした理由だけで、はたして「会社」はできるのだろうか?目の前の連中は見るからに浅はか・・・
そうは言っても現に始めている・・・
ま、まさか!とんでもなく「会社経営」は簡単なのでは!?
いや、しかし「簡単なもんじゃねぇ!」って怒鳴られたし・・・
でも、けっこう経営者って楽してるイメージじゃない?
ま、まさか!こいつらとんでもなくバカなんじゃ!?
とは言うても俺こいつらの言うとおり、会社なんてやったことないからな~)


しばらく考えた。そして腹をくくった。

 

深く息を吸い、吐き、吸い (ナウリバンダ)

 

「明日から会社作ったるわ。」

その場ににいる全員に言ってやった。

補修会社経営が簡単だと証明する為に。

私は言ってやった。

 

もちろん・・・

 

失笑。

誰もが「テキトーな事言いやがって」と思っただろう。
私も、腹を括ったとはいえ、「言ってしまった」と言う後悔を感じなかったと言えば嘘になる。

言い争い、孤独を感じ私は少し疲れていた。

興奮状態であったのと気分を落ち着かせたい事もあって、今日はもう帰ろう、ひとりで行こう♡と帰りじたくを始めるとふと視線を感じる・・・

顔をあげるとそこには笑いもせず真剣な眼差しで私を見つめる3人がいた。

つづく

     

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